西部湯瓜のshow論文

場末の劇場へようこそ

日本で一番文章が巧い作家・三島由紀夫

一番好きなロックバンドは、人それぞれ違う。ある人にとってはMr.Childrenかもしれないし、ある人にとってはBUMP OF CHICKENかもしれない。筆者にとっては、ELLEGARDENだ。

ところで、一番好きなバンドを決めることはできるが、一番良いバンドを決めることはできない。”一番良い”の定義が曖昧だからだ。結局は、その人の個人的な好みが出てしまう。でも、定義がクリアなら、一番を決めることは可能だ。

例えば、”走る速さ”で一番を決めるとすれば、それはウサイン・ボルトであると、世界中の誰もが認めるだろう。ロックバンドも同じで、たとえば”ボーカルの技術”という一点だけで見れば、日本で一番上手いのはONE OK ROCKだ。細美武士が言うのだから、間違いない。*1

これと同じことが小説家にも言える。”面白さ”で一番は決められないが、”文章の巧さ”でなら一番を決めることができる。日本で一番文章が巧い小説家は、間違いなく三島由紀夫だ。

偉人・青山繁晴もこのように述べている。

「最高の芸術品ですね。これが文章なのかと思うくらい。(中略)伝統技術で作りこまれたような、美術品のような文章というのは滅多にあるもんじゃないですよ。(中略)美術品としての文章というのは、僕は三島さん以外には多分発見できていないですね」*2

では、そんなに凄い文章とは一体どんなものなのか?
三島由紀夫の文章を実際に観てみよう。
代表作「金閣寺」から1シーン引用するので、ご自身の眼で、その美を確かめてもらいたい。
以下は、小説のタイトルでもある金閣寺についての描写だ。

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 私はまた、その屋根の頂きに、永い歳月を風雨にさらされてきた金銅の鳳凰を思った。この神秘的な金いろの鳥は、時もつくらず、羽ばたきもせず、自分が鳥であることを忘れてしまっているにちがいなかった。しかしそれが飛ばないようにみえるのはまちがいだ。ほかの鳥が空間を飛ぶのに、この金の鳳凰はかがやく翼をあげて、永遠に時間のなかを飛んでいるのだ。時間がその翼を打つ。翼を打って、後方に流れてゆく。飛んでいるためには、鳳凰はただ不動の姿で、眼を怒らせ、翼を高くかかげ、尾羽根をひるがえし、いかめしい金いろの双の脚を、しっかと踏んばっていればよかったのだ。

 そうして考えると、私には金閣そのものも、時間の海をわたってきた美しい船のように思われた。美術書が語っているその「壁の少ない、吹きぬきの建築」は、船の構造を空想させ、この複雑な三層の尾形船が臨んでいる池は、海の象徴を思わせた。金閣はおびただしい夜を渡ってきた。いつ果てるともしれぬ航海。そして、昼の間というもの、このふしぎな船はそしらぬ顔で碇を下ろし、大ぜいの人が見物するのに委せ、夜が来ると周囲の闇に勢いを得て、その屋根を帆のようにふくらませて出帆したのである。
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どうだろう。もう納得されたことだと思う。見ての通り、凄まじい超絶技巧だ。
三島由紀夫に文章スキルを教えてほしい、と三島由紀夫以外の全ての日本人が思ってしまうほどに美しい。

そんな彼が文章を書く技術について思いを綴った一冊の本がある。

文章読本三島由紀夫(1973年)

何とありがたい話だろうか。これを読めば、文章上達のヒントを、日本が生んだ史上最高の文豪から学ぶことができるのだ。これは、小説を書いている作家にとってはもちろん、ブロガーやWebで物を書くライター、学校で作文を書かされる学生まで、文章を書く全ての人にとって有益な話である。みんな、早速これを買って勉強しようじゃないか。

しかし、一つ大きな問題がある。それはこの本のレベルが高すぎることだ。

この本は、三島由紀夫が例文をピックアップし、そこで使われているテクニックについて解説していくスタイルなのだが、その引っ張ってきた例文の作者が、森鴎外芥川龍之介、あるいは川端康成だったりする。つまり、例文からして難易度が高い。そのうえ、三島由紀夫の解説レベルも高すぎる。より良い文章を書きたいと、張り切って、この本を読んでみたところで、例えば中学生など、人によっては、この本に書かれている技術の9割は扱えないことだろう。扱えないだけでなく、理解することさえ厳しいこともあるかもしれない。

でも、大丈夫。安心してほしい。学校の作文やらブログやらツイッターやら、ちょこっと文章を書く機会があるくらいの人にとっては、持つべき武器が、必ずしも気高い日本刀である必要はない。せいぜい小石で十分だろう。どこでも拾えて、誰でもパッと投げられる。重要なのは、そういう汎用性だ。そして、すぐに使える即席性。

次回、三島由紀夫の『文章読本』の中から、再現性の高い”すぐに使える”テクニックを厳選して紹介しよう。

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金閣寺

金閣寺

 

 

文章読本 (中公文庫)

文章読本 (中公文庫)

 

 追記:久しぶりに読み返してみたら、タイトルでアイキャッチ狙い過ぎて、論理の破綻が目についてしまった。「文章の巧さ」という漠然としたジャンル分けで一番と言い切るのはさすがに無理があった。でも、まあそれもSHOW論文。2017年8月14日。

*1:雑誌『ロッキング・オン・ジャパン11月号』(2012年)での細美武士the HIATUS)とTaka(ONE OK ROCK)の対談を参照。

*2:チャンネル桜の動画『【青山繁晴】人生観、師弟関係と三島由紀夫について[桜H27/1/16]』より引用。